↑これは計画中の建物のCGパースです。
とてもスッキリして格好良く見えます。これはあくまでも簡易的に雰囲気を掴むためのものなので実際に出来上がる建物とは細かなところで異なります。
実際の建物には、照明器具やエアコン、それらのためのスイッチ、換気扇、ドアノブ、壁と床の見切り材、壁と天井の見切り材、誘導サイン、消防設備などなどたくさんの部材や設備が設置されます。
もちろんカーテンや食器、絵画やポスターなども配置されるでしょう。
例えばエアコンは壁掛けにするのか、天井付にするのか。
それらの室外機はどこに配置するのか、室外機までのダクトは天井裏の構造体に干渉しないか、干渉する場合は補強することができるのか、本体から室外機までの距離は許容範囲か、エアコンからの排水経路は確保できるか。
はたまた照明スイッチを設置するためのスペースは確保できているか、どこのスイッチでどこの照明を入切するか、スイッチBOXを埋めるためのスペースが壁内にあるか、柱と干渉しないか、見た目に美しくない場所に設置せずにすむか、断熱材との取り合いは大丈夫か……etc。
例えばで書いた、エアコンと照明スイッチ(照明器具ではなく!)だけでも、機能や見た目以外に設置場所のことについてもこのように検討しなければならないことがたくさんあります。
しかもこんなことは建築設計の初歩なのです。実務ではもっともっと複雑なことを検討しています。そういうことも検討して初めて「建物を設計した」と言っていいのです。
そして実際に工事が始まると今度は施工者との丁々発止のやり取りが始まります。建築主の要望の変更などもあり、設計時に決定していたエアコンの配置をイチから考え直しなんてこともあります。
決してPCの前で座っているだけで完結する仕事ではないのです。
2階のことは考えずに、とりあえず1階の間取りだけ考えたことを「自分で家を設計した」と言っちゃいけません。
上記のことは設計の全体からするとほんの一部です。
延々とこういう検討を繰り返しながら設計図を描いていきます。
たとえ2~3枚の計画図だったとしてもそれを作るのに何日もかかっているのです。完成した2~3枚の図面そのものに対する報酬をいただくのではなく、描きあげるまでに費やす日数に対しての報酬をいただいているのです。
ある一枚の図面をもう一度始めから描くのに何時間かかるか、と言われると数時間で描けるでしょう。でもそういうことではないのです。
目に見えて出来上がる設計図の一本一本の線の陰には膨大な検討作業が隠れているのです。物理的に図面を描いている時間よりも、考えている時間のほうが何倍も何十倍も長いのです。
これがなかなか一般の人には分かってもらえないのが設計者のつらいところです。
ピカソの逸話にこういうのがあります。
街なかでファンに絵を描いてくれ、と頼まれ、
ササッと30秒で描いた絵を「100万ドルです」と言ってファンに渡すピカソ。
「えっ、30秒で?」と驚くファンに、ピカソはこたえました。
「そうです、30年と30秒です。」
100万ドルとは言いません。。。