補助金制度を活用しての建設

保育園や老人福祉施設、障害者授産施設など、補助金制度を活用しての建設に関する相談も非常に多いので簡単に説明しておきたいと思います。

公的な補助金や助成金を使っての施設を建築するということは、
税金を使って建物を建てるということになります。気を付けなければいけないのは、補助金の申請をして、お金をもらって終わり、と単純にはいかないことです。

税金を使う以上、その使途が正しくなくてはいけません。
公共建築物を建てるのと同じくらいの厳しさをもって望まなければいけません。

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ここでは、あるZ市での事例を使って設計事務所の関わり方の具体的に流れを説明したいと思います。

事業主  : A社会福祉法人
施設用途 : 特別養護老人ホーム
建設費予算    : 2.5億円
補助金申請予定額 : 5千万円

とします。いわゆる特養ですね。障害者のための施設だったり、保育園だったりもしますが概ね同じ流れになります。

(1)10月
 Z市のHPに来年度の事業者の公募の概要が出ます。応募締め切りは12月です。

(2)10月~12月
 事業主の方から相談があります。

応募するための下記のような書類等を作成しなければなりません。

資金収支計画書、借入金額及び償還計画表、従業者の勤務の体制表、
開設までのスケジュール表、計画地と周辺の住宅地図、整備予定地写真、登記簿謄本、敷地配置図、設計図面(各階平面図)、 建物の部屋別床面積表、法人の定款、 法人の現在行っている事業内容が具体的にわかるパンフレット等…etc

大変ですが、大切な税金を使うのですから仕方がありません。
応募提出書類には設計図面とあるので、この段階で事業主は設計事務所に相談しなければなりません。

補助金を使う場合、原則として、設計と施工を同じ会社が行うのは禁止されています。

公共建築物と同等に扱うため、不正が発生しないようにです。

事業主と設計事務所で打合せを行い、計画図を作成していきます。
これは詳細なものではなく、あくまでも計画図となります。
しかし、もし今回の補助事業者に選定された場合、応募書類からの大きな変更は認められませんので、事業主と何度もやりとりし充分に計画図を煮詰めいていきます。
今回の事業についてのヒアリングも応募書類提出後に行われますので、
事業者に選定されるために、いわゆる「ウリ」の部分も検討します。

(3)2月
 市のヒアリングを受けます。

これは事業主の方が出席します。私たちは出席できませんので、
図面に対するレクチャーはヒアリングまでに何度も行います。

(4)3月
 応募者の中から事業者に選定されました。

この段階ではまだ予定者ということなりますが、この段階から、具体的に進めておかないと間に合わないため、事業主の方との打合せは随時進めていきます。

(5)5月
 市から国へ申請していた補助金の内示が下りたとの連絡が入ります。

(国への申請は行政からでしか出来ないので、まずZ市の代表選手を決めたということになります。)

(6)7~8月
 図面が完成→確認申請。

これは、事業主である法人内部でも意思統一が出来ており打合せもスムーズに進み、立地条件などに特に難しい問題はなく、トントン拍子に進んだ場合です。
それでも毎週1回程度の打合せは必要となります。

(7)8月中旬~下旬
 入札参加工事業者選定→入札→落札工事業者決定。

確認申請も無事終了すると工事業者の選定が行われます。
Z市にも入札に参加してもらう予定の工事業者を報告し、了承をもらいます。この作業だけでも2~3週間ほど要します。

補助金事業であり、社会福祉法人でもあるため、公共建築物と同様、必ず工事入札を行わなければいけません。

入札時には市の職員の方にも立ち会ってもらい、不正、不備がないよう入札書類等も何度もチェックします。
入札の進行は設計事務所の人間が行うことが多いです。

入札額が予算を超えてしまった場合、再度入札参加業者の選定からやり直しとなり、さらに時間がかかります。

(8)9月
 工事契約、着工。

工事完了までに担当部署の方が工事の進捗等の確認に来られます。

(9)2月~3月
 工事完了、各種検査。

普段行われる建築関係の検査以外に、補助金交付のための検査があります。
税金を使っているので非常にシビアな検査となります。
市、県と2つの行政庁から別々に検査を受けることもあります。
検査書類を整えるのにも2週間から1ヶ月を要します。

1日掛けて書類検査、現地での検査が行われます。
設計事務所が一番気を使い、また胃の痛くなる時です。
工事期間中から関係書類や工事写真など、細かく丁寧に記録しておかなければいけません。

補助金検査合格して初めて事務机や介護ベッドなどの搬入が可能になります。

開設へ向けての準備が始まります。

(10)施設開所
  なんとか年度内に検査も合格し、新年度から開設できました。

以上は様々なものが非常にスムーズに進んだ場合です。近隣との関係で工事が遅れたり、地面を掘ってみると予想もしなかった廃棄物が出てきたり、震災の影響で工事がストップしたこともあります。
実際は3月の年度内の完成は難しく、新年度に入っても工事が続く場合も多々あります。

必要な工事中の写真がなく、検査官の現地検査で壁を破壊して部材を確認した、

とか、

設計者も施工者も補助金検査というものをイマイチ深く考えていなかったようで、 何の書類も写真も準備することなく、工事を完成してしまい、当然検査に通るわけもなく、施設の開所が大幅に遅れてしまった、

という話を耳にすることもあります。

補助事業の場合、初めの計画から施設開所までのタイムスケジュールと厳しい検査があるということを事業主、設計者、工事業者、行政庁の担当部署、みながきちんと把握しておかなければなりません。

一般の民間工事にはない工程、検査が入ってきますので、
充分な余裕を持ってのタイムスケジュールを設計者とよく相談してください。

補助金の検査はやり慣れていないとなかなか上手く行きません。

充分注意して事業を進めて下さい。参考になれば幸いです。

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