耐震性能 / 耐震診断 / 耐震補強

1981年(昭和56年)以前に建築された建物は現行の耐震基準を満足しない可能性があります。

そこで、国を上げて旧基準で建築された建物、特に木造の住宅の耐震診断を促進しています。
気を付けて欲しいのは、耐震性能を満足しているからといって、何の心配もないということではないということです。
法律上の文言等(厳密にはいろいろあるのですが)をまとめると以下の通りとなります。

稀に(数十年に一度程度)発生する地震による力(建築基準法施行令第88 条第2項に定めるもの)に対して損傷を生じない程度

極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震による力 (建築基準法施行令第88 条第3項に定めるもの)に対して倒壊、崩壊等しない程度

これが建築基準法で定められている建物の耐震性能と考えて良いと思います。

「極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震による力」、これは阪神淡路大震災級の地震のことを指すらしいのですが、

阪神淡路大震災クラスの地震が来たときに、「倒壊、崩壊等しない程度」というのが建築基準法で定められた耐震性能ということになります。

何を言いたいかというと、

地震が起きたときに倒壊、崩壊はしないだろうけど、そのまま住み続けられるかどうかは別問題ということです。

耐震診断を行い、耐震補強工事をしたとします。耐震補強によって建物の耐震性能が目標値を上回ったとしても、あくまでも、その建物が倒れる可能性は少ないよ、ということです。ですので、揺れが収まったら出来るだけ早く建物の外に逃げなければなりません。
なぜなら次の余震で崩壊してしまうかもしれません。

例えばマンションなどの集合住宅で、耐震補強工事を行ない、現行の耐震基準をクリアしたとしても、そのまま使い続けられるかどうかは、分かりません。あくまでも『倒壊、崩壊しない程度』です。
財産価値が変わらないかと言えば、それも分かりません。

阪神淡路大震災後の話としてこういう話を聞いたことがあります。

某住宅メーカーが、阪神淡路大震災でもうち建物は大丈夫でした、と言った意味の宣伝を行ったそうです。
某国土交通省の職員の方が、「あれは困るなあ、きちんと調査しないと、もしかしたら紙一重かもしれないのに。」と困っていたと。

耐震診断、耐震補強という技術はまだまだ日が浅いものです。今現在の耐震診断の基準になっているのは阪神大震災(1995年)の際に収集したデータが元です。
当時倒壊した建物を計算しなおし、ある数値で線引きをした、ということです。

その数値を耐震指標:Is値といいます。分かりやすく言うと、Is値0.6を境に耐震性能の有無が区分されます。

Is値0.6を下回る耐震性能の建物はIs値0.6を超えるように補強を行う、というのが基本的な考え方です。ですので、1981年以前の旧耐震基準の建物であっても計算するとIs値0.6を超える場合もあるでしょう。
しかしその逆、 1981年以降の建物は基本的にIs値0.6を下回ることはないはずです。

学校等はIs値0.7を目標に耐震補強を行います。警察など、重要拠点となるような施設はもっともっと高い数値をクリアするように補強、新築設計が行われています。

地震という自然の脅威は人間にとってまだまだ未知のものですから、まだまだ大地震のたびにデータを収集している最中だとも言えます。

東北大震災(2011年)でも、耐震補強済みの建物が想定以上の損壊を受けているという報告も見受けられました。
津波での被害があまりに甚大でしたので、地震の揺れによる建物の被害、またそれによる逃げ遅れ等はあまり表に出てきませんが、ゼロではないはずです。

建物が倒れずに残っているからこそ逃げられるのです。
建物が倒れずに残っているからこそ、道路を塞がれずに逃げることが出来るのです。

今は殆どの自治体で耐震に関する補助金助成金制度があります。まだお済みでない方は是非、問合せてみてください。

そして耐震診断だけで終わるのではなく、耐震補強工事まで必ず行なって下さい。

自治体によっては木造以外の鉄筋コンクリート造や鉄骨造であっても、補助金を申請することができます。お住まいの自治体の制度を確認してみてください。

学校や庁舎などの施設の耐震診断、補強設計も行っていますが、それらは診断結果が目標数値を下回ると必ずといっていいほど予算がついて補強工事まで行われます。または取り壊されます。

建築士会を通して行政の無料耐震診断を行う耐震診断士として、いくつも木造住宅の耐震診断を行いました。しかし民間の住宅の場合、実際に補強工事まで行う方は本当に少ないのです。

応急危険度判定士という資格があります。文字通り、応急的に建物の危険度を判定しその建物への立ち入りの可否等を判定します。

震災建築物被災度区分判定・普及技術者という資格もあります。被災した建物を度合いによって区分する資格です。継続使用するための復旧の要否を判定します。

震災後にこれらの資格を持った建築士が、建物の危険度、被災度などを判定してまわります。

もし、大地震が起きて、それらの判定で被災地を回っているときに、私が耐診断した住宅が崩壊していたら…。もし、その下敷きになった方がおられたらと思うと…。

悔やんでも悔やみきれません。

不安に思われたら、まず、相談してみてください。行政でも、設計事務所でも、建築関係団体どれでも結構です。
まずは相談から。これは耐震でも新築でもリフォームでも同じです。

建築士としてのお願いです。